教育

言語文化学分野

言語学・現代日本語学領域

世界には6,000もの言語があり、どれも精密なしくみをもっています。何気なく使っているどんな言語でも、その使い方には理由があり、規則があり、メカニズムがあります。また、日本語といっても、地域ごとの方言もあれば、世代による話し方の違いもあります。フィールドワークを通して言語を観察したり、インタビューやアンケート調査、データベースを利用した言語分析を通して、言語のしくみや規則性・多様性を明らかにします。

言語学・現代日本語学領域にはどんな授業があるの?

※授業の内容は一例です。今後変更される可能性もあります。

実践演習(言語学)では、フィリピン語を通して、世界の言語の中でのフィリピン諸語の言語学的特徴と特異性、さらに言語の多様性について学びます。

課題演習(言語学)では、世界のさまざまな言語に翻訳されている『星の王子さま』で、主人公がどのように表現されるのかをテキストマイニングの手法で明らかにしていきます。

人文学講義(現代日本語学)では、現代日本語に見られる言語の多様性や言語変化について、方言、敬語、外来語などを取り上げ、社会言語学の視点から考察します。

人文学講義(日本語教育学)では、まず世界を知ること、その中で、どのような人が日本に興味を持ち、日本語を学んでいるのかを知ります。その上で、日本語を教えるために必要な文法の知識を、現代日本語学の論文を読み解きながら学習していきます。

先輩たちはどんな研究をしているの?

  • エスペラント語のテキストに見られる3種類の受身の表現についての研究
  • ゲームの競技シーンで用いられる動詞の比喩的用法について
  • 新聞における連続ドラマのあらすじを解説する文章について
  • 岡山方言ネイティブによる方言イメージの研究
  • 日本人の名前に使われる子音と母音は時代によってどのように変わってきたか
  • 韓国語母語話者が日本語を話すときに使用するフィラー(エーット、アノーなど)について

日本語・日本文学領域

日本語学では、日本語が古代から現代へとどのように変化してきたのか、その経緯を文献資料や現代語・方言の分析を通して研究します。日本文学では、和歌、物語、小説など、日本の文学作品またはその隣接ジャンルについて、それを支える文化・社会・思想をも考慮に入れながら、理解を深めます。日本語学は文学を理解するための基礎であり、日本文学は日本語学の不可欠の資料です。

日本語・日本文学領域にはどんな授業があるの?

※授業の内容は一例です。今後変更される可能性もあります。

人文学概説(日本文学1)では、『源氏物語』や上田秋成、夏目漱石、芥川龍之介等の文学作品を分析するとともに、同時代の社会や文化がそれらに対していかに影響を及ぼしているかを見てゆきます。


実践演習(日本語学)では、中世室町期の口語資料であるキリシタン資料『天草版伊曾保物語』の本文の読解作業を通しながら、中世室町期の日本語の様相及び日本語史の理解を深めていきます。

先輩たちはどんな研究をしているの?

  • 『枕草子』の日記的章段における主題
  • 花と月の歌を中心とする式子内親王研究
  • 上田秋成『雨月物語』の「菊花の約」における冒頭・結語の役割
  • 井上ひさし『言語小説集』論
  • 国木田独歩「富岡先生」の思想的背景とモデルについて
  • 『源氏物語』における形容詞「はづかし」の意味用法について

中国言語文化学領域

悠久の歴史と伝統を誇る中国。その4,000年にも及ぶ時の流れのなかで、多様で厖大な文化遺産が蓄積されてきました。そのなかでも言語・文学・思想・文化の研究を、中国言語文化学領域ではおこないます。中国語のしくみを理解するとともに、たとえば陶淵明や白楽天らの詩、『三国志演義』や『西遊記』等の小説、現代の小説・演劇・映画・漫画から、アジアにもヨーロッパにも多大な影響を与えてきた中国文化に分け入ります。

中国言語文化学領域にはどんな授業があるの?

※授業の内容は一例です。今後変更される可能性もあります。

人文学概説(中国言語文化学1)では、中国4000年の文学と文化を広く、そして深く扱っています。漢文訓読体での理解に加え、当たり前のことですが外国語として中国語の文章を読解してゆく授業もあります。(写真は『封神演義』の那吒)

実践演習(中国言語文化学)では、杜甫や李白、白居易など、有名な詩人の作品を、一字一字丁寧に読み解きながら、漢詩を分析する能力を養う授業を行っています。(写真は白居易の墓)

先輩たちはどんな研究をしているの?

  • カレーとコーヒーからみる現代中国都市部の飲食文化
  • 耽美ネットドラマ・映画を中心とした中国BLの研究
  • 改革開放後の相声(中国の漫才)
  • 現代中国における「文明」の概念、マナー向上について
  • 唐詩に見られる秦の始皇帝のイメージ
  • 白居易が梅の花を詠じた詩について

英米言語文化学領域

大学で英語を学び、英語圏文学を研究することは、たんに英語を話せる技能・知識を身につけるだけのものではありません。それは、英語のメカニズムを科学的に解明するための理論や方法を学ぶことであり、英米の小説・詩・演劇を成り立たせている構造や理論、文化的・社会的背景、映画やジャズなど他の芸術形式との類似と差異を解明していくことです。もちろん、言語と文化への深い理解は、英語運用能力の向上にも資するでしょう。

英米言語文化学領域にはどんな授業があるの?

※授業の内容は一例です。今後変更される可能性もあります。

ヒトの言語には共通の原理があり、現代の言語学はその共通原理の解明を行なっています。人文学講義(英語学)では、英語という題材を用いて、ヒトの言語の生物学的な基盤を解明する科学的な手法を学びます。(図は言葉の構造を表している)

実践演習(アイルランド・イギリス文学)では、20世紀前半のアイルランドを舞台とし、写実主義と細かい象徴主義を組み合わせ、モダニズム文学におけるとても興味深い作品となっているジェイムズ・ジョイスの短編小説『ダブリン市民』を詳しく読みます。(写真は『ダブリン市民』の初版本)

実践演習(アメリカ文学)では、19世紀初頭の起源から、20世紀初頭のアメージングストーリーなどの雑誌の発展まで、アメリカの雑誌におけるサイエンスフィクションの出現について説明します。(写真は1926年から発行されているSF小説に特化した雑誌)

先輩たちはどんな研究をしているの?

  • 英語のit…thatと強調構文のit等の仮主語の種類と性質についての研究
  • Someとanyの交代と二種類のsomeについて
  • コルソン・ホワイトヘッドの『地下電車道』にみられるアメリカの本当の顔
  • 1963年以降のケベックのドキュメンタリーに見られる多文化主義の現れ方
  • 『ティファニーで朝食を』のアウトサイダーが人々の規範である可能性について
  • 記憶の操作:ハリー・ポッターにおける忘却への恐れと思い出す願望

フランス言語文化学領域

フランス文化には、人間に対する鋭敏な、ときに辛辣なほどの洞察と、それを言い表すことばの美しさへの特別な感覚が息づいています。フランス言語文化学領域では、英語や日本語との対照から見える現代フランス語のしくみと、文学のさまざまなジャンル(詩・小説・演劇・エセー等)について学び、さらに映画・BD(漫画)・オペラ・シャンソン・フレンチポップスなどを通して、フランス文化の世界に足を踏み入れます。

フランス言語文化学領域にはどんな授業があるの?

※授業の内容は一例です。今後変更される可能性もあります。

実践演習(フランス社会)では、フランス語資料を読み解きながら、フランス現代社会のいろいろな側面について学んでゆきます。


フランス語コミュニケーション3では、ネイティヴとフランス語でやり取りをすることにより、フランス語会話や作文などの訓練をします。


実践演習(日仏合同授業)では、フランス人留学生と協働して、動画やマンガの制作など一つのタスクに取り組み、バイリンガル作品を作り出します。

先輩たちはどんな研究をしているの?

  • フランスと日本の公共空間における相互作用の直接観察の比較
  • 英語のto zapから借用したフランス語zapperの多義性について
  • 食材の色に関するフランス語著作の日本語訳
  • ルナール『にんじん』の主人公と家族の関係について
  • サン=テグジュペリ『星の王子さま』の翻訳の比較
  • モーリヤック『テレーズ・デスケルー』における宗教的救いについて

ドイツ言語文化学領域

ドイツ文化は、時間と空間の隔たりを超えて、人間・自然に対する深い愛情と洞察を、私たちに直接語りかけてくれます。ドイツ言語文化学領域では、ドイツ語のしくみを理解することはもちろん、ゲーテやシラーからカフカやエンデにいたる文学とそれを生み出した社会との関係について考え、さらにドイツ語圏の音楽・絵画・映画を通じて、ドイツ文化の世界に踏み込んでいくことができます。

ドイツ言語文化学領域にはどんな授業があるの?

※授業の内容は一例です。今後変更される可能性もあります。

人文学講義(ドイツ言語文化学)では、ドイツ文学の代表的な作品を読みながら、時代背景(近代人が抱えていた諸問題)と現代の私たちにとってこの作品が持つ意義等について講義を行います。(写真はゲーテの詩集)

実践演習(ドイツ言語文化学)では、物語、漫画、詩など、さまざまな文学テキストを扱います。文学は作者とその社会・時代との相互作用の中で生み出され、また私たち読者も社会環境の影響を受けていますので、文学作品を翻訳するだけでなく、作品と社会とのつながりについても考察します。



ドイツ語コミュニケーションでは、ドイツ語の文法を学ぶだけでなく、何よりもドイツ語を実践的に使うことを目的としています。そのために、日常会話用のテキストを使い、興味深いトピックについて話し合います。

先輩たちはどんな研究をしているの?

  • ゲーテの詩と、ゲーテの詩を歌詞として作曲されたドイツ・リートの内容と形式、詩と作曲の関わり
  • ゲーテ『ファウスト』第2部第2幕の「古典的ヴァルプルギスの夜」と、当時の自然科学における火成論と水成論をめぐる議論との関係
  • グリム童話における継母の心理的な役割や、継母が多く登場した時代背景の研究
  • 菜食主義者を志していたカフカの、実生活における体験の小説作品への反映

在学生のことば

沖野 翼(2020年度入学・日本語・日本文学領域)

私は、日本語学を専門的に学んだうえで、国語科教員免許状を取得し、高等学校の国語科教員となることを目指しています。私が本領域を選択したのは、やはり日本語の「通時性」に重きをおいて学ぶことができるためです。現代日本語における言語現象において、「現代語」ばかりに囚われては説明が難しく思えるものも、古語の語彙や文法の視点から捉えることで合点がいくものも多くあります。ゆくゆくは、大学での学びを生かし、学校国語科教育の中でいわゆる「古典」と「現代文」を接続した教育を展開していける教員となることを目標にしています。
ただ、学校教育での国語科というのは、「言語学」的知識以外にも、「文学」的知識を必要とする教科でもあります。私自身の専攻は日本語学ですが、本領域では、そうした日本文学に関する学びを深めていくこともできます。「国語科」に欠かせない日本語学と日本文学、そしてそれらを通時的に捉えた知の有り様を学ぶことができることが何よりも本領域の魅力であると感じ、選択した次第です。

教員のことば

宮崎 和人(言語学・現代日本語学領域)

「文化」にはさまざまな定義がありますが、どの定義に従っても、ことばが代表的な人間の文化であることは間違いないでしょう。ことばには、私たちが長い年月をかけて作り上げ、共有してきた世界観や価値観、認知活動や社会的活動の様式が刻み込まれています。ことばが単なる記号と異なるのは、そうした文化的な基礎や背景によって成り立っているという点においてであり、ことばが多様であり、ゆるやかに変化するのはそのためです。「言語文化」にはまずはこのように「文化としての言語」という意味があります。「言語文化」にはもう一つ、「ことばによって創造された文化」という意味もあります。文学作品などの言語芸術がそれです。言語文化学分野では、この二つの言語文化にアプローチします。
私の専門は日本語学ですが、言語学の方法によって日本語を記述することを目指しています。言語学にもいろいろな立場がありますが、私の場合、環境(文脈)との相互作用や話し手と聞き手の共同行為の中に実現する言語の姿をありのままに捉えることを重視しています。そのようにして初めて、「文化としての言語」の本質が見えてくるように思われるからです。

京 健治(日本語・日本文学領域)

日本語学では、日本語が古代から現代へとどのように変化してきたのか、その経緯を文献資料や現代語・方言の分析を通して研究します。日本文学では、和歌、物語、小説など、日本の文学作品またはその隣接ジャンルについて、それを支える文化・社会・思想をも考慮に入れながら、理解を深めます。日本語学は文学を理解するための基礎であり、日本文学は日本語学に不可欠な資料です。「概説科目」では、日本語学及び日本文学の基礎を、「講義科目」ではより専門性の高い学修内容を取り上げます。「実践演習」では、「概説科目」「講義科目」で得られた知見をふまえながら、文学作品や言語資料の読解作業という実践的な訓練を通して、日本語学・日本文学の研究の方法と観点を身につけていきます。「課題演習」は3年次から履修します。この授業では、各自が卒業研究のテーマを定め、調査・分析した内容を発表するという作業を繰り返し行うことで研究成果をより精緻なものにしていきます。卒業研究のテーマは作品論・作家論・日本語の歴史・現代語・方言等に関わるもので様々です。この「課題演習」等での研究成果を卒業論文として提出します。卒業研究は4年間の学修の集大成となるものです。受験生の皆さん、日本語・日本文学領域で「日本語(史)」「日本文学」に関する知見を一緒に広めてみませんか。

ルヌウ・ロイック(フランス言語文化学領域)

岡山大学文学部では、英語、ドイツ語、フランス語、中国語、ロシア語、オランダ語、セルビア語、ギリシャ語、ラテン語を学ぶことができます。(全学教養外国語科目には韓国語、スペイン語、イタリア語もあります。)ここではフランス語についてお話しします。フランス語は初修外国語としてだけでなく、哲学、社会学、人類学、歴史学、文学、言語学など様々な学問領域の知識を深める手段としても学びます。フランス語は五大州で話されているので、どこにいてもフランス語話者と出会うことができます。 岡山大学では教養と文学部の科目を組み合わせてフランス語を段階的に学ぶことが可能です。さらに上達したい場合は、フランスのボルドー(ボルドー・モンテーニュ大学)に4か月または9か月留学することをお勧めしますし、シャンベリまたはサンテティエンヌでの短期語学研修も可能です。教員は、卒業論文作成に向けて少しずつ準備するために、常々さまざまな著作を直接参照するよう勧めています(Wikipediaでは足りません!)。フランス語で書かれた著作を参照する場合にはフランス語が読めると有利になります。フランスの言語、文化、社会、歴史に興味がある場合、日本のそれと比較するとより興味深い卒業論文になるでしょう。