都島 梨紗(つしま・りさ)
教育分野(領域)
地理学・社会学・文化人類学・社会文化学分野(社会学)
研究・教育のキーワード
教育社会学、犯罪社会学、逸脱・社会問題研究、当事者活動研究、質的研究法
研究者としての私
私は、非行や犯罪を経験した若者への聞き取り調査を主たる研究アプローチとして採用しています。こうした研究をしていると「なぜ非行少年に興味を持ったのですか?」と問われることが多いです。この研究をはじめるにあたり、いろいろとターニングポイントはあったのですが、振り返ってみると、子どもの頃の交友関係がはじまりだったように思います。
私の通っていた小学校区には児童養護施設がありました。私は、児童養護施設から小学校に通う同級生とも仲が良く、母親に彼女を私の家に呼びたいと頼んだことがありました。ほかの友人と同じように、自室で一緒に遊びたいと考えていました。ですが母親は難色を示し、結局彼女を自室に招くことは叶いませんでした。その時母親に言われた内容をはっきりと覚えていないのですが、「両親ともに揃う一軒家に育ち、遊び道具もたくさん持っている私が、施設の女の子を家に誘うことは良くないことだ」、という意識を持たされたことを鮮明に覚えています。
私の友人は、私と自身の差異をどのように受け止めていたのかわかりません。ですが今となっては、知らず知らずのうちにマジョリティである私が彼女を傷つける瞬間があったのかもしれないな、と思います。しかし、だからといってほかの友人と違うかかわり方が正しいようにも思いません。こうした小さな「配慮」が分断を生み、排除を生み出す契機になるかもしれないことを、非行や犯罪などを経験した若者との聞き取りで感じています。
非行や犯罪を経験したことのある当事者と、マジョリティである「私たち」はもっとも分断が生じやすい関係性の一つだと思いますが、どのようにして社会内で共に暮らし、大人になっていけるのだろうか、ということについて研究では問い続けています。最近は、非行や犯罪に留まらず、様々な理由で社会的に困難を有する若者についての研究も行っています。
教育者としての私
学問は、自身が抱える「生きづらさ」を言語化するためのツールでもあると思います。私にとっては社会学がまさしくそれでした。高校時代、自身の努力不足が原因で落ちこぼれていたのにもかかわらず、勉強をボイコットしていた時期がありました。学力偏差値を用いた序列化構造によって、ある特定の能力のみを評価し、一部の生徒を「負け組」扱いするかのようなシステムに嫌気がさしていたのです (今思えば中二病です)。そんな時に救われたのが高校現代文の教科書に掲載されていた、ある文章でした。現代社会論で著名な見田宗介による「南の貧困/北の貧困」です。学力偏差値による序列化にはじまり、いろいろな社会システムになんとなくモヤモヤとした違和感を抱いていた当時の私は、「社会システムに違和感を抱いてもいいのだ」「私のモヤモヤを言語化する方法があるのだ」と肯定してもらえたような記憶を、今でも鮮明に覚えています。
人によって、しっくりくる学問はそれぞれだと思います。学生のみなさんにも、岡山大学での学びを通して、学問とのいい出会いがあってほしいと思います。そのためにいろいろな学問分野や領域、または教員にアンテナを張って、諦めずに探究し続けてほしいと思います。もしも社会学に少しでも興味を持ってくださったなら、ぜひ授業を受けに来てください!
私が書いたもの
学術書なのでやや難しいですが、少年院を経験したことのある男性への調査を中心にまとめたものが以下です。博士論文をもとに構成しており、今の段階ではもっとも研究成果がまとまっている書き物です。
2021,『非行からの「立ち直り」とは何か』晃洋書房.
また、少年院を経験したことのある女性については、以下の論稿で触れています。
2023,「少年院出院者の語りから捉える見えざる『被害』」岡田行雄編『非行少年の被害に向き合おう!』現代人文社,127-142.
2021,「『問題者』を越える実践としての家族の記述」岡邊健編『犯罪・非行からの離脱』ちとせプレス,165-198.※共著
2017,「更生保護施設生活者のスティグマと『立ち直り』」犯罪社会学研究(42),155-170.
それから、社会調査の方法についても若干論稿があります。社会調査について学びたい人や「社会調査士」の資格を目指す人には参考になる部分があるかもしれません。
2024,「教育現場の論理と調査地選定に係る問題」ISRD-JAPAN実行委員会編『日本の青少年の行動と意識』現代人文社,17-30.※共著
2023,「コロナ禍の困難から考える質的調査の特質と課題」社会と調査(30),16-23.※共著