本村 昌文(もとむら・まさふみ)
教育分野(領域)
哲学・倫理学分野(倫理学)
研究・教育のキーワード
朱子学、陽明学、死生観、老い、看取り、大学史、日本思想史学、 村岡典嗣
研究者としての私
私の所属していた研究室は、とても自由な雰囲気で、扱う対象や方法に制約はありませんでした。ただし、研究をするにあたり、常に要求されたことは、「何が新しいのか?」ということを、「誰にでもわかるかたちで示す」ことでした。研究をする以上、これは当たり前のことといえますが、年を経るごとに、その重みを感じています。
もうひとつ、常に求められていたことは、「いま置かれている状況のなかで、最大限の努力をする」ことでした。大学院の学生であった当時、私はこの言葉の意味をよくわかっていませんでした。しかし、大学院の助手を任期満了で退職し、その後、専任の研究職に就くまで10年間、当たり前のように研究ができる環境とはほど遠い時間的・経済的・精神的余裕のない生活をおくるなかで、この言葉のもつ意味を肌で感じていくようになりました。四十という年を目の前にして、いまだ専任の職もなく、先の見えないトンネルの中を歩いているような状態のときに、私はふとしたきっかけで自分が死ぬまでにやっておきたいことを考えるようになりました。そうして、私は他の何をあきらめても譲ることのできない、自分の研究の道筋を見定めることができたように感じました。
こんな私が、現在、取り組んでいる研究は、以下の3つです。
- 江戸時代における朱子学・陽明学の受容と変容に関する研究。とくに、老い・看取り・死と儒教の関連を中心に研究を進めています。また、今後、儒教に限定せず、『徒然草』や『伊勢物語』等の注釈書を通して、近世日本の思想史を捉え直すことを試みたいと考えています。
- 日本における老い・看取り・死をめぐる意識の思想史的研究。過去の日本で、人々は老い・看取り・死についてどのように考えてきたのかということを検討しています。とくに、現在は、現代日本で老い・看取り・死を考える際に、多くの人が抱く「家族や子どもに迷惑をかけたくない」という意識に注目し、その歴史的な形成の解明を試みています。
- 村岡典嗣(1884年~1946年)の研究。村岡典嗣は日本思想史という学問分野を創った人物の一人といわれることが多いのですが、あまり研究は進んでいません。村岡典嗣という人物に焦点を当て、日本思想史研究のあり方、また大学と研究者の取り巻く環境・社会的な情勢と研究者の研究活動との関係を検討しています。
教育者としての私
「日本思想史」という学問分野の名前を聞いたことがある人は、とても少ないと思います。その理由はここでは割愛しますが、「日本思想史」研究は、日本列島における思索や意識を明らかにすることを目的としています。著名な思想家を取り上げて研究することも可能ですし、名もなき人の思索や意識を対象とすることもできます。何を対象とし、どのような方法をとるか、自分で考え、編み出していく必要があります。
日本思想史の専門科目は、①テーマを探すために広く通史を学ぶ(概説)、②現在取り組んでいる研究をリアルタイムで示しつつ、受講生は一緒に学術的な文章を作成する(講義)、史料読解のトレーニング(実践演習)、そして新しい研究成果を見いだし、卒業論文としてまとめていく(課題演習)という形でセットしています。新しい成果を見いだすことは簡単ではありませんが、それを目指し、たゆまぬ努力を通して、大切なものを手に入れることができるはずです。
私が書いたもの
最近、発表した論文などは以下のとおりです。
単著・編著
- 『老い:人文学・ケアの現場・老年学』、ポラーノ出版、2019年(編集代表)
- 『いまを生きる江戸思想:十七世紀における仏教批判と死生観』、ぺりかん社、2016年(単著)
近世思想史に関連するもの
- 「近世日本の儒仏論争-『徒然草』の注釈書をめぐって-」、『日本文学ジャーナル』25号、2023年3月、8頁~22頁
- 「儒仏論争」、日本思想史事典編集委員会編『日本思想史事典』、丸善出版、2020年4月
老い・看取り・死に関連するもの
- 「幸福な高齢期を考える-自分らしい生き方とは何か」、青木正人・川渕孝一編『国民の介護白書 2022年度版』第10章、日本医療企画、2022年11月、総頁数204、120頁~126頁
- 〈迷惑〉意識の過去と現在-日本における「老いを生ききるため」の一視点-、『日本エンドオブライフケア学会誌』6、2022年3月、16頁~21頁
- 近世日本における〈迷惑〉意識の諸相―『官刻孝義録』を手がかりとして―、『老年人文研究』第2号、2021年3月、21頁~37頁