川上 恵理(かわかみ・えり)
教育分野(領域)
芸術学・美術史分野(美術史)
研究・教育のキーワード
近世西洋美術史、神聖ローマ帝国、ハプスブルク、版画史、マニエリスム、16-17世紀
研究者としての私
神聖ローマ帝国という、現在のオーストリアやドイツ、チェコなどにまたがって存在した帝国の美術を中心に研究しています。私が主に扱う1600年前後の時代には、チェコのプラハに帝国の「首都」がありました。当時のプラハは、皇帝ルドルフ2世が宮廷を置いたことで、アルプス以北のヨーロッパの政治と文化の中心地として非常に栄えていました。
こうしたプラハの歴史や文化に関心を持つようになったきっかけは、学部生のときに交換留学でプラハで勉強する機会を得たことでした。それを機に、卒業論文でプラハの宮廷画家をテーマに取り上げ、気がつけば現在までその関心が続いています。
最近は、とくにプラハ宮廷との関係のもとで生み出された版画に注目しています。当時、版画は、図像を大量に複製できるほぼ唯一のメディアであり、宗教や知識の普及、娯楽などさまざまな用途で広く流通しました。こうした版画がどのように制作され、どのような人びとに受け取られたのかを調査することで、当時の社会や文化芸術の様相を考えています。
教育者としての私
美術史は、作品をよく見ることから始まる学問です。ただし、ただ目を向けるだけでは、何かを発見することはできません。授業では、まず作品の「見かた」を学ぶことを大切にしていきたいと思います。
美術館で作品を見るとき、「自分の好きなように、感じたままに見たらいい」と言われて、かえって難しく感じたことはありませんか。どこを見ればよいのか、何に注目すればよいのかわからず、膨大な作品を前にして疲れてしまうこともあるかもしれません。そうしたときに手がかりになるのが、知識や方法論です。感性ではなく、知識と方法論にもとづいて作品を見ることで、これまで見ていたのに見えていなかったことが見えてくるでしょう。そして、美術館での経験も一層楽しいものになるはずです。
また、デジタル技術が発展した現代であっても、作品を直接見ないとわからないことがたくさんあります。岡山には特徴ある美術館が多くありますので、実際に足を運んで作品を見る機会も大切にしたいと考えています。
さらに、美術館の学芸員として勤務していた経験をもとに、学芸員を目指す方のサポートにも取り組んでいきたいと思います。
私が書いたもの
展覧会カタログ:
・『奇想の版画 1500-1650 帝都プラハを交差するヨーロッパ版画』展展覧会カタログ、郡山市立美術館、2024年。
企画から手がけた展覧会となります。稀代の美術愛好家である神聖ローマ皇帝ルドルフ2世が収集した版画と、ルドルフ2世のプラハ宮廷との直接の関係下で出版された版画という2つの軸から、16世紀から17世紀の西洋版画を紹介しています。
主な論文:16、17世紀の近世西洋美術を中心に、図像学・図像解釈学の手法を用いた研究や、画家の社会的地位の向上やその背景に関する研究などに取り組んできました。
・「ヘルマテナの一形態における足下に描かれたモチーフの機能」、『美術史論集』、14号、2014年、102-116頁。
・「ルドルフ2世治世下のプラハにおける芸術運動 ―バルトロメウス・スプランゲル作《知恵の勝利》の油彩画と版画を中心に―」、『鹿島美術研究:年報別冊』、33号、2016年、123-134頁。
・「芸術家の庇護者としてのミネルウァとメルクリウス ――フェデリコ・ズッカリ作《誹謗》を中心に」、近世美術研究会 編『イメージ制作の場と環境:西洋近世・近代美術史における図像学と美術理論』、中央公論美術出版、2018年、149-168頁。
・“Bartholomeus Spranger’s Triumph of Wisdom as an Allegory of the Re-Evaluation of the Art of Painting in Sixteenth-Century Prague”, Studia Rudolphina: Bulletin of the Research Center for Visual Arts and Culture in the Age of Rudolf II, no. 17/18, 2018, pp. 67-78.