教員一覧

仲田 公輔(なかだ・こうすけ)

研究分野(領域)

歴史学・考古学(西洋史学)
 
 

研究・教育のキーワード

西洋中世史、ビザンツ、アルメニア、コーカサス、境域、キリスト教、聖遺物、聖人、歴史叙述

 
 

研究者としての私

ビザンツ(東ローマ)帝国という、今は世界地図上から消えてしまった国家とその周辺世界を研究対象としています。初期中世(7-10世紀頃)には地中海世界最大のキリスト教勢力だったビザンツは、周辺世界様々な影響を与え、現在も各地その足跡を残しています。私の関心は、現代風に言えば強いソフトパワーを持っていたビザンツが、周辺世界との境域においてどのような社会的・文化的相互作用を起こし、それが各地の独自の社会や文化の変容にどのような影響を与えたのかという点にあります。現在は主に、ビザンツ帝国と東方のイスラーム勢力の境域に置かれ、ビザンツとキリスト教を共有しながらもキリスト論をめぐる教義を異にしていたアルメニアという地域を対象に、大国の狭間で翻弄されながらも生き残りをはかっていた人々が、その中でいかにビザンツをはじめとする覇権勢力の文化的要素を戦略的に取捨選択し、影響を受けつつも新たな社会や文化を形成していったか、そしてそれが彼らのアイデンティティ形成にいかなる影響を与えたのかを明らかにしようとしています。私が取り組んでいる時代・地域こそ日本ではあまり知られていないと思いますが、こうした事象は古今東西の各地に見られることであり、類似の研究をしている人々と議論を交わしながら、それぞれの特色についての理解を深めていきたいと考えています。

研究の中で大事にしていることは2つあります。一つは境域の人々の主体性に目を向けることです。史料が少ないこともあってビザンツという大国の、それも中央政府の視点から語られがちな時代・地域を研究するにあたり、私は狭間に置かれた人々の声を拾い、よりニュアンスに富んだ歴史像を提示することを目指しています。その実践にあたり、第二点目として、多言語の史料の読解に取り組むことを心がけています。現在はビザンツとの関係ではあまり用いられてこなかったアルメニア語の写本奥付や碑文を用いて研究に取り組んでいます。

教育者としての私

歴史を学ぶこと、ひいては人文学を学ぶことは、あえて「今」や「ここ」や「自分」/「我々」以外に目を向けることで、わたしたち自身を取り巻くものの特徴を浮き彫りにすることに繋げられます。授業ではあえて現代の日本から時間的にも空間的にも遠く、様々な点で社会的・文化的に異なる中世ヨーロッパに目を向けることしていますが、これを異なった視座から自分たちの時代の社会や文化を見つめ直すことや、多様な価値観への視野を広げる機会につなげてほしいと考えています。

また、歴史といえば暗記科目というイメージが強い人も多いと思いますが、大学で学ぶ歴史は、多くのことを知っていれば良いというものではなりません。過去もまた深海や宇宙と同じく未知の世界であり、歴史学もまた、様々なかたちで(ときには新たな証拠から、時には見方を変えることで)過去についての新たな知見を得ることを目指しています。授業を通して、卒業論文までになにか一つ、自分が興味を持ったテーマで、まだ自分にしか見えていない世界を見つけるための手助けができればと思っています。

実践演習ではその基礎となる欧語文献の講読を行っています。この他にも、普段の研究ではギリシア語、古典アルメニア語、アラビア語などの史料を用いて研究していますので、これらの言語を使って研究することに興味がある方は、ぜひ研究室のドアを叩いてください。

文学部で学ぶことを通して、証拠に基づいて学ぶ厳密さ、データから新たな着想を得る独創性といった多方面に応用が効く能力と、文学部だからこそ身につく、バランスの取れた複眼的なものの見方のような素養の双方を身につけてほしいと思っています。

 

 

私が書いたもの

  1. 「ビザンツ統治政策とアルメニアの在地有力者」高山博・亀長洋子編『中世ヨーロッパの政治的結合体』(東京大学出版会、2022年)、543–576頁。
  2. 「10世紀におけるアルメニア=ビザンツ関係と聖人崇敬」『西洋史研究』50(2021)、30–52頁。
  3. 「9–11世紀におけるビザンツ帝国からアルメニアへの聖十字架断片の奉遷」『西洋中世研究』12(2020年)、111–127頁。
  4. ‘Uxtanes of Sebasteia and Byzantine Armenian Relations in the Tenth Century’, Revue des Études Arméniennes38 (2018/9), pp. 167–194.
  5. ‘Omens of Expansionism? Revisiting the Caucasian Chapters of De Administrando Imperio’, Trends and Turning Points: Constructing the Late Antique and Byzantine World, ed. M. Kinloch and A. MacFarlane, The Medieval Mediterranean 117 (Leiden: Brill, 2019), pp. 148–165.