教員一覧

中尾 知代(なかお・ともよ)

教育分野(領域)

地理学・社会学・文化人類学・社会文化学分野(社会文化学)

研究・教育のキーワード

植民地主義、戦争体験の継承、捕虜・抑留、海外の日本イメージ、 他民族表象、ジェンダー、レイス・クラス、オリエンタリズム、 メディア、漫画、歴史

研究者としての私

私は、主に「海外の日本イメージがどう変容しているか」を、戦争体験を軸に研究しています。さらに、戦争体験がもたらす当事者と家族へのトラウマ・PTSDと、国際的な問題の解決策を検討しています。きっかけは、幼少時にみた海外雑誌に中の妙なアジアの絵であり、海外の日本イメージを研究しようと留学した時に、第二次大戦の事で日本を激しく嫌う英国人に会ったこと、父母や親族の戦争・占領・植民地経験といえましょう。

<日本はスゴイ>と礼賛するテレビ番組が増えていますが、本当に日本は、クールな人気モノでしょうか?。桃太郎と鬼は典型的な善と悪ですが、鬼からみれば桃太郎は怖い略奪者ですよね?人は自分の基準で自分を善の側に、他者を悪の側として描きたい欲求を持ちがちです。だから、私は、<他民族のイメージができるプロセス>について、社会の制度・文化の差異・戦争や紛争・国際関係・政策、植民地/帝国主義などの要因を元に研究・分析しています。

また、実際に戦争の体験、特に捕虜・抑留者の体験を収集し、敵への憎悪がどう形成されるか、またそれと和解するのかも関心があります。人は辛い戦争体験とどうやって折り合いをつけるか、日本・海外の経験者のそれぞれのお話をきき、650時間以上のオーラルヒストリーアーカイブを保存しています。世界を分断する戦争の傷を、相互に伝えあい、それぞれの言い分をつきあわせ、フェアな解決策を検討しています。私たちはまだ、過去の戦争の傷やそれがもたらすストレスやトラウマの中で生きています。だから第二次大戦の「過去」の整理は、過ぎた昔の事ではなくて、「現代」の紛争を食い止め、さらに、私たちがバラエティ豊かな文化の共生をしていける「未来」、グローバルな世界を作るための、基本なのです。戦争時代の知識があれば、相手とたとえ意見は一致しなくても、海外でも息がしやすいですよ。

教育者としての私

社会文化学は、「社会と文化に、歴史と地理を掛け算したような」研究分野です。身近な材料や現象(アニメ・漫画・広告・ネット・いじめ・トラウマ)も題材に、現代社会がかかえる諸課題の解決策を考えていきます。方法として表象――あらわされるもの全般と考えて下さいーの分析、メディアリテラシー、オーラル・ヒストリー(聴き取り・口述)海外も含めたフィールドワーク、アーカイブの調査を用いますので、その方法論も教え、皆さんの興味を反映したフィールドワークのゼミ旅行に出かけます。

授業の特徴は、学生同士のディスカッション・発表・教員との意見交換が多いこと。ディスカッションをしたり、「ああ、この人もこんな風に考えていたのか!」「こんな考え方もあったのか」と驚く学生さんが多いです。講義の特徴とし、ゲストを呼んで、メディアの現場や、制作の過程、日本・海外の戦争体験や若者の劇など交流をしてもらう事です。身近なものに潜むシステムの力を読み解けるようになる研究です。シャイな自分に潜む表現力・発信力を広げてほしいし、メディアへの耐性を強めるのは大事です。また世界の衝突などを含む国際問題に取り組む事で視野を広げ、世界の傷を癒しつつ自分を育てていく、海外に発信していける。そんな志を抱く学生諸君、ウェルカムです。漫画やアニメ、映画にも、創造した人たちの背景には色々な社会構造や歴史があります。それを観察・分析しつつ、自分もクリエイティブな活動に携わっていく、そんな人を育てたいと思ってます。

私が書いたもの

私の専門は、いろいろな分野を総合的に考えるため、書く媒体も多岐にわたります。『日本人はなぜ謝りつづけるのか』(NHK出版、2008年)では英国の日本の戦後問題について、メディア・政策・和解など課題を紹介・分析。資料編とこの本でしか日本では読めないインフォも提供。岡山大学レポジトリ(http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/metadata/53594)に掲載。情報のアップデートは講義で御楽しみに。「こころの科学」2014年11月号の<暴力>特集号「戦争と暴力」の論文では戦争がもたらすPTSDを海外の市民抑留者と捕虜の家族を中心に、サワリを紹介。現在の政策・国際問題・戦争の記憶は『和解と共生の平和学』掲載論文「戦争の記憶―オランダ・日本・インドネシアの記憶」((共著日本平和学会、法律文化社2005年)が、今となっては貴重な情報源です。オーラルヒストリーの方法論では東京外国語大学の、レポジトリ(http://repository.tufs.ac.jp/handle/10108/26330)「戦争・植民地にかかわるビジュアルオーラルヒストリーの方法 : 附 シンガポール・マレーシアのアーカイヴ紹介 : 報告(<企画>シンポジウム : 消えゆく声を聞く/見えないものを見る : オーラル・ヒストリーの可能性とアーカイヴの課題)」をご覧ください。