教員一覧

髙野 宏(たかの・ひろし)

教育分野(領域)

地理学・社会学・文化人類学・社会文化学分野(地理学)

研究・教育のキーワード

文化地理学、歴史地理学、地理思想、地域文化、祭礼、文化財、風土論、近代、地誌学

研究者としての私

私が力を入れて研究しているテーマの一つが、祭り(祭礼)と地域社会との関係です。祭りはさまざまな学問分野で研究対象とされてきましたが、多くの人々が関心を払ったのは「それにはどのような宗教的な意味があるのか」ということでした。すなわち、神と人との関係に焦点が当てられたといえるでしょう。その反面、「それが地域社会においていかに運営されてきたのか」「地域住民の日常生活において何の意味があるのか」といった社会的な側面はあまり重要な問題とみなされてきませんでした。しかし、私はそうした現実的な問いから出発し、祭りの地域社会における意味を改めて考えることも大切だと思っています。

こうした思いを抱くようになったのは、大学4年生のときです。卒論の作成に向けて、私は広島県のとある山間部農村に滞在していました。そこで「大田植」という、一般的には田の神に稲の豊穣を祈願する行事とみなされている祭礼行事(お田植え祭り)を調べていたのです。私も初めは祭りの宗教的な意味に興味があり、祭壇の形状や儀式の進行といった田の神の祀り方ばかりに注目して調査をしていました。ところが、ある日、お話しを伺っていた古老の口から信じられないことを聞かされます。それは、この地域の大田植はバクロウ(牛の仲買人)が主催するということ、その目的は経済的に困窮した農家を助けるための資金集めだったということです。なぜ牛の仲買人がお田植え祭りを主催するのか、また彼らがどうして農家を助けるのか、私はすぐには理解できませんでしたが、調査を進めていくなかで、大田植が地域社会での人間関係のあり方や地域経済の仕組みと深く結びついていたことが判明しました。これ以来、私は身の回りにある祭りを宗教的に捉えるだけでなく、社会的なものとして捉え、それらの意味を地域社会の視点から改めて考えてみようと思うようになったのです。

近年では、過疎化や少子高齢化、都市的な生活様式の浸透などの影響から、さまざまな地域で祭りの存続が危うくなっています。地域から祭りを担える人がいなくなったり、祭りのためにお金を出す人が少なくなったりしているのです。そうした状況のなかでは、単に祭りの宗教的な意味を問うだけでなく、地域住民の日常生活を見つめなおし、その地域的な意味を現実的に問い直すことも重要になってくると考えています。

教育者としての私

教育を通じて私が学生の皆さんに伝えたいのは「学問すること」の自由さ、楽しさです。「学問」という重々しい響きと、「自由さ」「楽しさ」という軽やかな響きが結びつかない人もいるかもしれませんが、私はこれらを結びつけることが大事なことだと思っています。

そもそも文学部で学ぶことの多くは、高校までの「勉強すること」とは違って明確に決まった答えがあるわけではありません。ですので、授業でとある高名な研究者が提出した議論を学んだとしても、それを「正しいもの」として自分のなかに取り入れても良いし、「それは違うんじゃないか」と反発して自分のオリジナルな議論を展開しても良いわけです。また、文学部では「学問すること」の対象が必ずしも限定されていません。たとえば、高校までの「勉強すること」において漫画や流行の音楽を対象にすることはあまり一般的ではないでしょうが、それらを「学問すること」の対象にすることはとてもありふれたことです。それと同じように、私たちの身の回りにあるモノや、私たちの中にある形のないものは、何でもかんでも自分次第で「学問すること」の対象になりうると私は思っています。そうした自由さのなかで思いを巡らし、あるいは思いを巡らす材料を得るために資料収集や調査活動をすることは、基本的にはとても楽しいことだと信じています(時々は辛いことがありますが・・・)。

こうした考えをもっていますので、教員としての私の役目は何かと問われれば、学生の皆さんが「他でもない自分自身」として自由に思索を巡らし、「学問すること」の楽しみを味わってもらえるようにサポートする(背中を押す)ことではないかと、現段階では考えています。

私が書いたもの

  • 髙野 宏「大田植の研究―地理学の観点から―」岡山民俗 235、2014 年、1-14 頁。
  • 髙野 宏「鈴木秀夫『文明論的風土学』の再検討」岡山大学大学院社会文化科学研究科紀 要 36、2013 年、21-38 頁。
  • 髙野 宏「鈴木秀雄の風土論」岡山大学文学部紀要 59、2013 年、29-45 頁。
  • 髙野 宏「千葉徳爾『科学的風土論』の再検討」岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要31、2011 年、205-226 頁。
  • 髙野 宏「和辻風土論の再検討―地理学の視点から―」岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要 30、2010 年、313-332 頁。
  • 髙野 宏「大正・昭和戦前期における大田植の社会的基盤と地域的意義―広島県西城町八 鳥を事例として―」地理学評論 83(6)、2010 年、565-584 頁。
  • 髙野 宏「日本民俗学における大田植研究の成果と課題」岡山大学大学院社会文化科学研 究科紀要 27、2009 年、123-142 頁。
  • 髙野 宏「大正・戦前昭和期における『大田植』存続の地域的意義―広島県比和町森脇の 畜産業との関係から―」歴史地理学 51(2)、2009 年、1-20 頁。
  • 髙野 宏「地域社会との関係からみた大田植の習俗―昭和戦前期・広島県豊松村川東地区 における事例―」人文地理 59(5)、2007 年、1-21 頁。