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今津 勝紀(いまづ・かつのり)

教育分野(領域)

歴史学・考古学分野(日本史学)

研究・教育のキーワード

日本古代史、社会史、家族史、女性史、環境史、災害史、倭王権、地域、シミュレーション

研究者としての私

今の関心は地域史研究だ。地域にはいろいろな幅があるのだが、さしあたり関心の中心は、生活の場としての地域である。地域を問うといった場合、すぐに思い浮かぶのが、地域的な個別性や多様性を明らかにすることを立脚点として、全体を見直すなどの固有の意味だろう。こうした視点はこれまでにも共有されており、日本史研究では多くの地域史研究が重ねられてきた。この点はこれからも変わることはないだろうが、近頃は地域そのものを問うことに、より積極的な意味があるのではないかと考えはじめている。

世界はグローバル化の嵐に翻弄されており、そうした事態に対抗もしくは対応して地域への眼差しがあることは間違いないのだが、人間の生活の場としての地域を問うことを通じて、人類史を見据えたらどうなるかと思う。国家や民族といったものより先に、人類を見据えなければ私たちの生活の存続は危ういのではないか、国家や民族といったものと異なる仕組みが人間には必要なのではないかと痛感する。地球という物理的制約のなかで人類が生き延びるには、集中と分散、大型と小型、一様と多様を比較すれば容易にわかると思うが、いずれも後者のシステムの方が強靱だ。多様で開かれた生活の場を作ることが人類の課題であろう。

人間が構成する社会の変化は、環境もふくめた所与の歴史的諸条件のもとでの選択の結果でもある。人類史は、ヒトの環境への適応のプロセスとして理解できるが、地球上に拡散した人類の生活に即した地域生活史のレベルから組み立て直すことが大切だと思う。歴史学や考古学などの過去を扱う学問は、人類の環境への適応過程総体を考える確かな手がかりを与えることができるはずだ。地域に即して多様な適応プロセスを明らかにすることが歴史学研究のできることだが、古代東アジアの辺境である日本の列島社会の地域生活史の解明が、どのように寄与しうるかが問われている。それは十分に意味のあることなのではと密かに考えている。

教育者としての私

学生諸君は21世紀の人文学の創造者であってほしい。これまで人間は、呪術・宗教を通じて宇宙と世界を理解してきたが、これからの人間の生活にとって科学を無視することはできない。人間と科学のあり方は、これからの人文学の中心テーマにほかならないが、こうしたテーマに取り組むためには、現代科学についての知識が必要だし、そのためには基礎的な数学や統計の理解も不可欠だ。臆することなく挑戦してみよう。

また、どの学問も資料(史料)・データ・実験結果とその解析からなるが、それを結ぶのは言語により表現される論理だ。まず今、ここでこうして使っている言語、この場合は日本語だが、それを徹底的に磨いてほしい。正確にして、豊かな日本語表現を日頃から心掛けよう。学問を通じて意思を疎通させる能力を磨くこともできるのだ。

そして考え抜く習慣を身につけよう。物事を正確に理解し、展開させるためには正しく考えることが必要だ。考えることを放棄しては何も生まれない。学問は、新しいこと、かつ正しいことが求められる。その作業は難しく苦しいものだが、その彼岸には発見の大きな喜びも待っている。そうした知的営みに耐えられる力が体力とともに必要だ。

私が書いたもの

専門の学術単著には『日本古代の税制と社会』(塙書房、2012年)がある。その「あとがき」でも述べたが、これまでの自らの研究をふり返って、多少なりとも、筋道を辿ってまとめたもの。図書館に入っているので、是非、手にとってみてほしい。税制を軸に国家と社会の関係、支配と被支配がどのような関係のなかで実現していたのかを考えた。なかなか楽しい作業で、修士論文で取り上げたものから最近のものまでを収めている。奈良の都から出土する木簡の検討などを通じて、貢納が具体的にどのように行われていたのか、税物を整え都に送り天皇が確認する儀礼を復原するなど、古代の支配構造を税制の側面から再検討した。また、そうした古代の支配を支える社会について、当時の戸籍などを史料に婚姻のあり方などを考えることで、家族や村落、地域社会の実態を復原した。当時は人がたくさん生まれるとともに、たくさん死ぬ社会であり、親や配偶者といった身近な人との死別も頻繁に起きていた。こうした基本条件に規定されて、家族の形も現在とは大きく異なっていたし、さまざまな現象がそこから派生していたことが明らかになった。

最近のものでは、「古代の家族と女性」(『岩波講座 日本歴史4、古代4』岩波書店、2015年)がある。これまでの婚姻についての通説を再検討し、当時の婚姻の実態を説き起こすとともに、女性のライフサイクルを見通した。ツマドヒやヨバヒの実態、古代の恋愛や出産、老いまでを論じている。こうした問題は、近年では停滞気味なのだが、ささやかな一石となれば幸いである。

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