教員一覧

萩原 直幸(はぎわら・なおゆき)

教育分野(領域)

外国語・外国文学分野(フランス言語文化学)

研究・教育のキーワード

フランス語、フランス文学、フランス文化、フランス革命、前期ロマン主義、翻訳、異文化受容、表象文化、シャンソン、キリスト教

研究者としての私

フランス革命後の文芸思潮であるプレ・ロマンチスム(前期ロマン主義)の文学者たち、特にセナンクール(1770-1846)について研究しています。フランス文学者の市原豊太は『内的風景派』(文藝春秋)の中でバルザックの「人間喜劇」やプルーストの『失われた時を求めて』など、フランス文学の魅力について語っていますが、この書によってセナンクールの存在を知り、興味を覚えました。革命後のブルジョワ社会に自分の居場所を見出せなくなった貴族の青年たちと、世間への違和感や疎外感を覚えていた当時の自分が、何となくオーバーラップしていたように思います。自分は「貴族」だと言いたいわけではないのですが、少なくとも精神的には「ノーブル」でありたいと願っています(笑)。これまで主としてセナンクールの代表作である書簡体小説『オーベルマン』(1804)の主人公の人間像、この作品の日本への紹介・受容、翻訳のあり方などについて取り組んできました。なお、翻訳の問題に対しては、『オーベルマン』のみならず、例えば日本古典文学のフランス語訳など、異文化受容の問題とあいまって、関心を持ち続けています。将来はセナンクールの他の著作もふくめて論究し、一作家論としてまとめることができれば、と念じています。当時の社会と自己との関係についていろいろと考察を巡らせたセナンクールですが、体制に迎合しない彼の生き方と論述は、現代社会に生きる私たちにも何らかの示唆を与えるものがあると信じています。

教育者としての私

何よりもまずフランス語の美しさを学生に伝えたいと思います。第一にそれは響きの美しさとしてあるので、フランス語の授業ではできるだけ正確な発音をするように心がけています。時には教室でシャンソンを歌うこともありますが、フランス語の音楽性を例証するにはこれが有効です。第二にフランス語は論理を明晰に伝える言語としての「美しさ」を備えています(これは数学的美しさに譬えられかもしれません)。それを具体的に知るには、思想・文学作品や新聞雑誌記事などを原文で読み、またフランス語作文を実践して、これを体感し、会得することです。第三にフランス語は美味(うま)し国フランスに生きる人々の生活や文化の豊かさを表現するものであり、フランス文明の精華とも言えるものです。私の授業では、その背景にあるキリスト教への理解のもと、小説や詩はもちろん、演劇、オペラ、映画といった表象文化をも扱っています。学生諸君には、自分の興味を惹くもの、好きなものを早くから見つけて、それを愛すると同時に、その魅力を他者に客観的に伝える言葉を構築することができるようになってほしいと思います。

私が書いたもの

主著はOberman ou les aléas d’une œuvre au pays du soleil levant: Réception du roman de Senancour au Japon(岡山大学文学部研究叢書34、2012年)です。フランス語による著作で、邦題を付けるなら『「オーベルマン」または日出づる国における一作品の運命日本におけるセナンクールの小説の受容』とでもなるでしょうか。日本語による自著解題で概要を紹介していますので、興味のある方はそちらをご覧ください(岡山大学文学部紀要、第59号、2013、岡山大学附属図書館リポジトリ)。▼前掲書の一章をさらに詳しく論じた「岩波文庫の検閲と『オーベルマン』の削除をめぐって」(日本フランス語フランス文学会中国・四国支部編『フランス文学』、第30号、2015年、支部会誌リポジトリとして公開予定)。戦時中、岩波文庫に収められた『アミエルの日記』、ジッドの『ソヴェト紀行』、フローベールの『ボヴァリー夫人』が当局の検閲を受けて削除・改訂されたことは周知の事実ですが、フランス語圏文学作品としては『オーベルマン』にもその痕跡があることを指摘し、その経緯等について論じました。▼翻訳と異文化受容の問題に関しては、「ルネ・シフェールによる「吉備津の釜」のフランス語訳について」(岡山大学文学部プロジェクト研究報告集『文化の交流、文化の翻訳』、2014年、岡山大学附属図書館リポジトリ)。『源氏物語』ほか日本古典文学の翻訳を手掛けたルネ・シフェールによる上田秋成の『雨月物語』の仏訳のうち、「吉備津の釜」(吉備津神社の鳴釜神事が重要な伏線となっています)の訳文の工夫と問題点について指摘しました。▼表象文化に関わるものとして、「アリとセミの寓話―19世紀の挿絵による解釈―」(岡山大学文学部紀要、第33号、2000年)を挙げておきます。日本では「アリとキリギリス」としておなじみのイソップ寓話をフランス語にリライトしたラ・フォンテーヌの寓話詩を、それに付された数種類の挿絵を材料にしながら、テクストとイメージの関係の観点から読み解いたものです。