教員一覧

大久保 範子(おおくぼ・のりこ)

研究分野(領域)

芸術学・美術史分野(美術史)
 
 

研究・教育のキーワード

日本美術、浮世絵、江戸、明治、相撲絵、庶民文化、信仰、表象、文化財

 
 

研究者としての私

 浮世絵の中でも力士を描いた相撲絵を専門にしています。学生時代のはじめは工芸に関心があったのでが、研究がうまくいかずに挫折してしまいました。その後たまたま行った国技館で展示されていた力士の絵に興味をそそられ調べてみたところ、あまり研究が進んでいないことがわかり、しかも面白そう…それなら取り組んでみよう!とシフトした次第です。さらっと書きましたが当時はそれなりに反対もされ、悩みもしました。でも最終的に自分の人生に責任を取れるのは自分しかいないことを思い出し、それなら未知の分野に飛び込んでみるのも悪くないかな、と判断して半ば強引に研究を始めました。あれから十数年が経ち、あの時思い切ってよかったなとつくづく思います。
 

 相撲絵の大半は役者絵を手がけた絵師によって描かれました。大きく違うのは、役者絵がいわゆる当時のイケメンにふさわしい美化が図られているのに対し、相撲絵の力士たちは鼻が低かったりタラコ唇だったりといった”忖度のない写実”で描かれているという点です。一方で肉体描写は実際よりもかなりムキムキに誇張して描かれるように変化していきます。当時の錦絵はブロマイドのようなものですから、よりたくさん売るために、購入者の”こうあって欲しいなぁ”という姿で描かれているんですね。このように、錦絵には当時の人々が描かれた対象をどのように捉えていたのかが暗示されています。私の研究は、こういった目に見える資料から、当時の人々の価値観や感覚を探るというものです。

 ちなみに相撲は小さい頃から見るのも好きで、学生の頃も一人で国技館へ観にいったりしていました。あの頃は将来の仕事につながるなんて思いもしなかったですが、人生は意外と無駄なくできているのかもしれません。

教育者としての私

 皆さんの中には将来の明確な目標を持って大学に進学してきた人もいれば、何となく学部を選んだ結果という人もいると思います。私の場合、子供の頃から「将来の夢」を聞かれるのがものすごく苦手でした。なぜか大人はよく子供に夢を聞きたがりますが、世の中に無数にある仕事がどんな生き方につながるのかはあまり教えてくれません。結局私は将来の夢がないまま、当時関心のあった芸術について理論と実技の両方が学べ、他学部の授業も多く受講できるというモラトリアム型にはもってこいの地元の大学へ進学しました。

 学生時代は興味の赴くままに様々な授業を受講し、サークル活動(陶芸)と旅行とアルバイトに明け暮れる日々でした。充実した日々ではあったものの、それでもまだ将来の見通しが立たず、どこか焦りと鬱々とした感覚が渦巻いていたのを思い出します。

 ここまで聞いて、そんな日々を突然変える運命の出会いがあったのか?と思われるのかもしれませんが、結局そんなものはありませんでした。けっこう長い学生生活だったんですけどね。それでもトライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ自分の望む道が見えてきたという感じです。

 皆さんの中にも、おそらく当時の私と同じような悩みを抱える人もいるかと思います。この悩みに特効薬はありません。ただたくさん世の中を見て、学んで、楽しむのみです。私が授業を通じて手助けできるのは楽しむためのちょっとしたヒントを伝えることだけ。でもこの先まだ長い皆さんの人生が、美術を通じて豊かになることを願っています。

私が書いたもの

著書

・『美術教育の理論と実践』博物館における展示企画立案を想定した授業における実践例,(『美術教育の理論と実践』編集委員会, 2018年, 共著)

・『写楽』別冊太陽183,「写楽の相撲絵・武者絵・追善絵」(平凡社,2011年, 共著)

論文

・Supersize Sumo Wrestlers: Selected Imagery, Impressions 42, Japanese Art Society of America, 2021

・「勝川春英の相撲絵に関する一考察」, (『浮世絵芸術』第176号,  国際浮世絵学会, 2018年)

・「勝川春章と勝川派の相撲絵」, (『生誕290年記念 勝川春章―北斎誕生の系譜―』, 太田記念美術館, 2016年)

「葛飾北斎の相撲絵に関する研究」, (『鹿島美術財団年報』第31号, 鹿島美術財団, 2014年)

「勧進相撲と江戸の名力士たち」, (『江戸の相撲と力士たち展』, 太田記念美術館,  2014年)