教員一覧

宮崎 和人(みやざき・かずひと)

教育分野(領域)

言語学・現代日本語学分野(現代日本語学)

研究・教育のキーワード

日本語、機能文法、認知言語学、文法的カテゴリー、文法化、方言文法、コミュニケーション、テクスト、コーパス

研究者としての私

中学校の国語の授業で口語文法を習うので、あれが現代日本語文法のスタンダードだと思っている人も多いかもしれませんが、実は、文法学者の中で学校文法を正しいと思っている人はあまり多くありません。「か、き、く、く、け、け、こ」と唱えて覚えた動詞の活用表も、形容動詞を認める品詞分類も、文節という概念も、定説からほど遠いものです。実用的な面でも、高校で習う文語文法は古典を読むのに役立ちますが、口語文法を知っていれば現代文がよく読めるというような話はあまり聞きません。

言語学を学ぶと、日本語がそれまでとはまるで違って見えてきます。たとえば、ヨーロッパ語の動詞には人称・数・時・相・法などの文法範疇がありますが、これらの範疇はヨーロッパ語に特有のものであり、日本語には無関係であると見るのは間違いです。人称・数以外の範疇は日本語動詞にもあるのに、学校文法の活用表は、範疇と関係なく形式的に作られているため、時や法の「システム」が見えなくなっています。日本語で未来を表す動詞の形が何であるかをほとんどの日本人は知りません。名詞が格のシステムをもつことも、知られていません(格助詞は勉強しますが、名詞の格システムは勉強しません)。これもほとんど知られていませんが、日本語には前置詞にあたるものさえあります。「(~に)よって」「(~を)めぐって」などがそれで、語順が逆なので「後置詞」と呼びますが、前置詞と機能はまったく同じです。

私の卒論は、古代語の伝聞推定の助動詞「なり」をテーマとしたものでした。当時、これはもともと聴覚による情報入手を表すものであり、音を表す「ね(な)」と存在動詞の「あり」が融合してできたとする国語学者の説が有力でしたが、私は信じませんでした。しかし、それからしばらくたって、文法化(名詞や動詞が後置詞や助動詞などに変化していくこと)やエヴィデンシャリティー(どのようにしてその情報を入手したかを言語的に区別すること)という言語学の概念を学んでからは、この説が最もよいと考えるようになりました。方言の文法も、言語学的にとらえなおすことで、標準語よりも他言語と共通する特徴(標準語の文法の当てはめでは理解できない特徴)があることがわかってきます。

何かを比較するときには共通の土台が必要です。土台が違えば、違って見えるのは当たり前です。共通の土台を提供するのが言語学の方法論です。私は、文法的カテゴリーという考え方を通じて、日本語の文法を他言語との比較に堪えうるものにすることを研究課題としています。

教育者としての私

講義では、日本語の形態論・統語論を解説したり、機能文法・認知言語学に関するテーマを取り上げたりしています。演習では、コーパス言語学の手法を指導します。卒業研究では、日本語の文法(方言を含む)や語彙に関するテーマを中心に指導しています。課題演習では、学生の動機を大切にしながら、それを研究テーマに育て、学術的に意義あるものにするにはどのように展開したらよいかということや論文の構成について徹底的に議論します。

我々には文法を「規則」と考える習慣がありますが、授業では、発想を転換し、コミュニケーション上のストラテジーという「ボトムアップ」の文法観を提示したいと思います。そのため、言語の実際的使用に目を向けることを重視します。また、単語という単位の重要性や語彙と文法の不可分性なども、見落とされがちなテーマなので、意図的に取り上げるようにしています。最近は、しばしば国語辞典を話題にしています。

私が書いたもの

機能文法的なアプローチによって日本語のモダリティを研究したものが多いです。「認識的モダリティの意味と談話的機能」(『ひつじ意味論講座4モダリティⅡ:事例研究』ひつじ書房、2012)は、認識的モダリティの多義性について、ネットワーク・モデル、視点、情報構造、文法化、レトリックなどの観点から多角的に論じたもので、一般向けに書かれています。『現代日本語の疑問表現―疑いと確認要求―』(ひつじ書房、2005)は、博士論文をまとめなおして公刊したもので、疑問文の中に潜在する話し手の認識を体系的に取り出そうとしたものです。

共同研究によって生まれた記述文法に関する成果としては、『新日本語文法選書4モダリティ』(共著、くろしお出版、2002)、『現代日本語文法』(日本語記述文法研究会編、全7巻、2003~2010、くろしお出版)があります。
その他の学術論文については、国立国語研究所の「日本語研究・日本語教育文献データベース」にアクセスして、著者名で検索してみてください。本文表示が可能なものもあります。