教員一覧

中谷 文美(なかたに・あやみ)

教育分野(領域)

地理学・社会学・文化人類学・社会文化学分野(文化人類学)

研究・教育のキーワード

文化人類学、ジェンダー、インドネシア、オランダ、労働、ワーク・ライフ・バランス、伝統染織、消費、ファッション

研究者としての私

私は大学の学部卒業後、4年の時からアルバイトをしていたNPOに就職しました。東南アジアの国々と草の根の交流を手がけている市民団体で、専務理事と会計担当者と私しかいないような小さな事務所でした。そこで3年働いている間に、さまざまな変化が起こりつつあった東南アジアの農村で、普通の人々が何を考え、どのように暮らしているのかを皮膚感覚でわかりたいと思うようになり、現実理解のツールとして文化人類学という学問を志すことにしました。幸いにも奨学金でイギリスの大学院に留学できることになり、オックスフォードという美しい街で暮らしながら、ひたすら勉強の毎日を送りました。留学当初は修士課程の2年だけで終わるつもりでしたが、先達が書いた民族誌(文化人類学の手法による調査成果をまとめたもの)をさんざん読まされた挙句、自分の調査をせずに日本に帰るのももったいないような気になったため、博士課程に進学しました。別の奨学金を得て、インドネシアのバリ島でフィールド調査をし、農村の女性労働に関する博士論文を書きました。

バリの山村で暮らし、人々の日常に丸ごと身を浸すことができた2年間は、本当に貴重なもので、その後のものの見方にも大きな影響を受けました。

10年ほど前からは、ワーク・ライフ・バランスをテーマにオランダでも調査をしています。ここ数年は、アジアの伝統染織の生産と消費をテーマとする共同研究を始め、ほかの国に足を運ぶことも増えてきました。

私にとって文化人類学とは、人ととことんかかわることから始まる学問です。その相手は国境を隔てた遠い社会の住人かもしれないし、身近な他者かもしれない。ただ、その人が身を置く集団を理解しようとすることを通じて、人間としての普遍性と社会としての多様性が同時に存在することの不思議さと面白さに魅了されています。

教育者としての私

講義形式の授業では、1回読み切り形式を心がけています。毎回特定のトピックについて、文化人類学の知見やアプローチを伝えるばかりでなく、学生の皆さんを取り巻く日本社会の現状を新たな視点で切り取ることができるような内容を盛り込むようにしています。そのために、新聞記事のコピーや各種統計資料、コミックの一場面などを資料として配布することもあります。テレビで放映されたドキュメンタリーやドラマなどを短く編集し直した映像を見てもらい、グループ討論をする授業もよくやります。

教養科目でも専門科目でも、毎回コメントを書いてもらっていますが、授業を通じて触発された考えや他の学生の意見に対する感想などを読んでいると、少しずつ授業が深まっていくのを感じ、うれしく思います。ただ、授業中に発言する人が増えてくれるともっとうれしいんですけどね…。演習等も含め、どの授業でも期待しているのは、取り上げられたテーマに対し、自分自身の問題として向き合うことです。そして自分の考えを的確に言語化できるようになるためには、一般書から専門書、論文に至るまで、多くの文献を読み込み、知識に加えて語彙のストックを増やしてもらいたいです。

私が書いたもの

『オランダ流ワーク・ライフ・バランス――「人生のラッシュアワー」を生きる人々の技 法』(世界思想社、2015 年)、『「女の仕事」のエスノグラフィ――バリ島の布・儀礼・ジェン ダー』(世界思想社、2003 年、第 32 回澁澤賞受賞)、『仕事の人類学――労働中心主義の向こ うへ』(宇田川妙子と共編著、世界思想社、2016 年)、『ジェンダー人類学を読む』(宇田川妙 子と共編著、世界思想社、2007 年)『ジェンダーで学ぶ文化人類学』(田中雅一と共編著、世 界思想社、2005 年)、“Dressing Miss World with Balinese brocades: The “fashionalization” and “heritagization” of handwoven textiles in Indonesia,” Textile: Journal of Cloth and Culture, 13(1): 30-49, 2015 (DOI: 10.2752/175183515x14235680035700)、「伝統染織を着るということ――イン ドネシア、バリ島の手織り布の地域内自給とその変容」『文化共生学研究』12、2013 年、1-20 頁(岡山大学附属図書館機関レポジトリ)。ほかに 1 章を担当した論文集として、『民族大国 インドネシア』(鏡味治也編、木犀社、2012 年)、『アジア女性と親密性の労働』(落合恵美 子・赤枝香奈子編、京都大学出版会、2012 年)など。