教員一覧

和田 郁子 (わだ・いくこ)

教育分野(領域)

歴史学・考古学分野(東洋史学)

研究・教育のキーワード

アジア史、南アジア史、インド洋海域史、コロマンデル海岸、港町、東インド会社

研究者としての私

専門は南アジアとインド洋海域の歴史です。

インド洋に大きく張り出した半島部を持つインドでは、歴史上、数々の港町の盛衰が見られました。とりわけ私が専門とする16-18世紀は、海陸の交通路の発展によって人びとの移動や交流が活発化し、多くの港町が長距離交易の拠点として繁栄した時代です。このような港町は、遠隔地の出身者を含む様々な人びとが行き交うコスモポリスとしての性格を強く持っていました。私の主たる研究対象地域はインド南東部のコロマンデル海岸ですが、この地方の港町でも当時はイランの商人、オランダやイギリスなどの東インド会社、ポルトガル系の人びと等々が活動していました。中世と近代の間で大きく変化していくこのような港町社会の諸相を、南インド内陸のデカン地方を含むその周辺地域も視野に入れ、海と陸の連関の視角から明らかにすることを目指しています。

長い歴史をもつ南アジアは、文化的な魅力にあふれた世界です。現地調査で訪れる史跡・遺構の素晴らしさはもちろんですが、各地方の特徴ある食べ物や衣装、そして人びととの出会いに毎回新鮮な驚きと喜びを感じます。もっとも歴史学研究の基本は文献の解読にあるので、普段は古いペルシア語やオランダ語などで書かれた写本や文書のような史料を読む、地道な作業を繰り返す毎日です。最近は史料もデジタル化が進みつつありますが、やはり当時書かれた「本物」を目の前に置いて読む楽しさには代えがたいものがあります。

教育者としての私

学生の皆さんには、広く世界への関心をもってほしいと思っています。大学で学ぶことによって身に着けてほしいのは、自分自身で問題を見つけ出し、その問題の核心に迫るための力です。隠れた問題を探り出すには、幅広い関心に支えられた知識が必要であり、そのような知識を手に入れるには、そのためのスキルを習得することが求められます。例えば言語は、そのようなスキルのひとつとして重要です。世界には様々な人びとが住んでいて、各地で日々、日本語の報道では伝えられない出来事が起こっています。そして、中学校や高校で学んできた世界の歴史は、地球上で人類が経験してきた事柄のほんの一部にすぎません。まずは、知ろうとすること。少し背伸びをして、あるいはちょっと斜に構えてでも、周りの人が知らないことや、探そうとしなければ手に入れるのが難しいような知識を求めてほしいと思います。そして、何かについて知りたいと思ったら、ウェブ検索だけですませるのではなく、ぜひ書物を手にとって読んで下さい。入り口は映画でも小説でも漫画でも何でもかまわないので、とにかく色々なものに興味をもって接してほしいと思います。

アジアの歴史や社会に接する入り口として、お薦めしたい本を3点挙げます。①バーブル(間野英二訳注)『バーブル・ナーマ:ムガル帝国創設者の回想録』全3巻(東洋文庫,2014-15)ムガル帝国の礎を築いたバーブルの自伝のチャガタイ・トルコ語からの翻訳です。歴史研究における第一級の史料ですが、詩人でもあったバーブル自身の生き生きとした語りが随所に見られ、読み物としても楽しめます。②クリシャン・チャンダル(謝秀麗編)『ペシャーワル急行』(めこん,1984)印パ分離独立の動乱期の悲劇を描いた表題作をはじめ、全10篇の作品を収めた短編集です。私自身、高校時代に読んで衝撃を受けると同時に、コミュナル対立(宗教集団間の対立)などの現代南アジア社会が抱える問題を歴史的に捉える重要性について目を開かせてくれた本でもあります。③ムルタトゥーリ(佐藤弘幸訳)『マックス・ハーフェラール:もしくはオランダ商事会社のコーヒー競売』(めこん,2003)19世紀の蘭領東インド(現在のインドネシア)を舞台とする長編小説で、オランダ文学を代表する作品とされています。植民地官僚としての勤務経験をもつ著者が、植民地統治の実態を批判的に描いたものです。現在では、国際的なフェアトレード認証団体がこの作品にちなんだ名称をもつことでも知られています。

私が書いたもの

コロマンデル海岸の港町については、学術雑誌掲載の論文以外に、歴史学研究会編『港町に生きる』(青木書店,2006)と、『他者との邂逅は何をもたらすのか ――「異文化接触」を再考する』(昭和堂,2017)で書いています。後者は小石かつら氏(音楽学)との共編著ですが、動的に変化する相互関係のなかで「異文化」との接触を考えようという視点でまとめたものです。また、同様の視座から、前近代のインドにおける人間集団の「境界」の捉え方に着目した論考を、水井万里子ほか編『女性から描く世界史 ――17~20世紀への新しいアプローチ』(勉誠出版,2016)に寄せています。

ほかに、インドにおけるオランダ東インド会社の活動に注目したものとして、「インドの村から長崎へ ――綿布から見る近世日本と世界のつながり――」フレデリック・クレインス編『日蘭関係史をよみとく 下巻:運ばれる情報と物』(臨川書店,2015(但しグラフに誤植あり))や、「近世インド・港町の西欧系居留民社会における女性」水井万里子ほか編『世界史のなかの女性たち』(勉誠出版,2015)などの論考があります。

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